28 mars 2005

original sound track ."Let's get lost"

 ブルース・ウェーバー監督、チェットの半生を描いたドキュメンタリー映画のサウンドトラック盤。
 全編モノクロームのこの映画の中身については、ちょっとやそっとでは語りつくせないほど思い入れがあるので別の機会にしたいと思いますが、ここで聴かれるチェットの最晩年の演奏は、静寂の中からひたすら美しい調べを紡ぎ出そうとするような彼の繊細で深い、そして冷たく哀しいリリシズムを突き詰めたようなものとなっています。彼の音楽性を代表するアルバムとはいえないかもしれませんが、彼の作品でいちばん好きなものをと言われたら、わたしはこれを挙げます。


 ①ベースのリフに導かれて始まるボサ仕立ての"Moon and sand"は、このアルバムのみならず、チェットのレコードでいちばん好きな演奏のひとつ。ブルージーで美しい曲ですがほとんど他には誰も取り上げていないみたい。(わたしも人前で弾き語るときのレパートリーにしてます。)

 その後もピアノトリオをバックに淡々と切ないプレイとヴォイスを聴かせてくれますが、中でも白眉かつ目新しいのは、このころライブでしばしば共演していたニコラ・スティロ(gt.fl)が加わってのA-C.ジョビン作ボサノヴァスタンダード「Zingaro」(原題Retrato em blanco e preto)でしょう。映画の中では冒頭、若いおねいちゃんが海辺で笑いながら舞い踊るシーンで流れ、諸行無常のことはりを暗示させます。

 のちにトニーニョ・オルタとの共演盤も2枚作るスティロのこと、チェットにブラジル音楽を紹介しつつあったのかもしれません(映画の中ではスティロがガットギターを弾いてチェットがスキャットでセッションする、(;´Д`)ハァハァなシーンもあり)。バンドの演奏いわゆるジャズボサみたいなイイカゲンなものではなく、とくにピアニストのプレイがツボを得ており、ジョビンの原曲の深みと美しさを引き出しています。

 チェットは晩年のライヴ盤で、ジョアン・ジルベルトの名演で名高いボサナンバー「Estate 」もレパートリーにしていますが、それもスティロの影響だったのかも。チェットがボサノヴァの美しい楽曲を吹き、歌うのをもっと聴きたかったと思うファンはわたしだけでしょうか。


 ラストはエルヴィス・コステロ作「Almost blue」。映画ではクラブの浮かれて騒がしい客に向って「静かに聴いて頂きたい。そういう曲ですから。」と言ってこの曲を始めます。このアルバム全体を彩る翳りがもっとも濃くなり、幽玄なまでの空気感のなか、残響を残して終わりを告げます。

 この映画が完成した直後、1988年5月13日金曜日夜、チェットはアムステルダムのホテルの窓から転落、謎の死を遂げます。胸に愛用のトランペットを抱えて。享年58歳。

 「警官は、『胸にトランペットを抱えた、30歳位の男の死体を発見』と報告した」との字幕が映り、そのあと若かりしころのチェットが出演した映画のカットが流れ(台詞はイタリア語だ)、映画は終わります。死に向って墜落していく彼の身体になにが起こったのか、もう知るすべもありませんが、痛みとドラッグとそして透き通った音楽で満ちた魂が天に昇ったあと、抜け殻となった肉体はほんとうに30歳の姿に戻っていたのかもしれません。死は伝説と謎を生み、あとには深い夜闇が続くばかり。そして音楽はいつまでも流れ続けます。
①Moon & Sand ②Imagination ③You're my thrill ④For Heaven's Sake  ⑤Everytime we say goodbye ⑥I don't stand a ghost of a chance with you ⑦Day Dream ⑧ Zingaro (Portrait in black & white) ⑨Blame it on my youth ⑩My one and only love ⑪Everything happens to me ⑫Almost Blue 

Personel

Chet Baker (vo,tp)  Frank Strazzeri (pf) John Leftwich (ba)Ralph Penland (dr) Nicola Stilo (gt,fl on 8)

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