旅のイレモノ

 ちょっと前の話だが、仕事で行った石巻でのこと。
 毎年この時期に行く仕事先の近所に、さびれた街には不似合いな輸入アンティーク家具屋があって、毎年昼休みに冷やかしていたのだが、今回行ってみると「閉店セール・全品50%OFF」の看板が。やはりこの街じゃこういう雅な商売は立ち居かないんだなあと、それでもとくに何買うつもりでもなく入ってみる。
 すると家具類に混じってぽつんと置かれている旅行用トランクが目に付いた。モスグリーンのキャンバス張りにヌメ革のオレンジが映える、見た目なんとも絵になる代物。造りもしっかりしていて、革も分厚いものが使われている。

 訊けば1970年代英国製で、ずっと倉庫で眠っていたデッドストックとのこと。一度も買われて使われたことがないのかキズ汚れも殆どなく、新品同様と言っても過言でない。

 英国で作られて30余年、旅で使われることを夢見ながら倉庫の片隅で眠り続け、果ては遠い異国の骨董屋に売りに出された揚げ句店も畳まれようとしている。異国の旅人(わたし)にこのトランクの嘆きが聞こえてくるような気がした。こいつはわたしに買われたがっているんじゃないのか。これも何かの巡り合わせだ。きみ、わたしと旅をしてみないか。
 値段はといえば、値札が68000円、半額で34000円だ。うーん安くはないけど欲しいぞ。置いとくだけで旅っぽい気分になれそうじゃないか。
 で結局、翌日買う決心をした。

 さらに「定価のない品物は、一応値切ってみる」という、諸国の旅で培ったわたしの掟を実践してみると半額からさらに2千円引いてくれた。ラッキー。
 製造は英国Papworthというブランド。検索してみると現在この手のトランクは作っていないものの、ちゃんと由緒あるカバンメーカーらしい(ウェブサイトの携帯バーセットに感動した。いかにも英国らしい。そこまでして野外で酒飲みたいかと。)
 果たしてこの買い物はお得だったのかと、いろいろ検索してみる。現在も作られている同様のモノを見ると、古いものとはいえやはりおトクには違いない。
 

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