Suomalaisia Kansanlaulja / Laulupuu (1980)


最初に聴いたフィン・トラッドがこれ。「Finnish folk songs」という意のひねりゼロのタイトル。

 1989年にキングのユーロトラッドシリーズの1枚として日本盤が出ました。 しかも完全対訳付き(注釈でカレリア方言とか古語とか出てきてかなり専門的な人が訳していたんだろなと思って調べたら、訳者の河村美奈さんは現在フィンランド大使館勤務)。
当時ブームだった「ワールドミュージック」の盛り上がったおかげとはいえ、いま考えるとすごいことでした。

 カンテレの夢幻的な響きに絡む澄んだ音色のフルート、2人の女性ヴォーカル、比較的モダンなアレンジ(最後の曲などボサノヴァぽい)の親しみやすさがフィンランド的心象風景へといざないます。
(女性Voの歌い方がトラッドというより歌のお姉さん的なので好みが分かれるかもしれませんが)。

 アルバムは後にも先にも1枚きり、検索しても何も出てこない幻のグループですが、メンバーの名前で検索してみると実は、木管奏者はペッカ・ポホヨラ(Ba)も参加した70年代のジャズロックグループ、Unisono のメンバーだったり、パーカッションは60年代のフィンランド初のビートグループ Strangers のドラマーだったり、ベーシストTapio Salo もフィンランドのトップスタジオミュージシャンだったりします。
 このことからこの作品は、トラッド畑のカンテレ奏者2人がジャズ/ロックシーンのセッションマンと組み、歌のお姉さんを呼んできて歌わせた企画アルバムだった、という考え方に至ったのでした。それならライヴ等の活動もせず、アルバム1枚で散開したのも想像に難くなく、情報の無さもさもありなんと。
 こう書くと寄せ集めメンバーで作ったいい加減な作品と思われるかもしれませんが、そんなことは全くない緻密な造りで、のちのフィン・トラッドの名作のかずかずの布石になっていると言えましょう。

 音源、探したけどやはりありません。
 でも日本盤は今でもときどきヤフオクに出たりするので見つけたら買いですぜ。

 メンバーのその後を調べてみたら面白いことが。
 ヴォーカルのEeva-Leena Sariola はその後も本当に「歌のお姉さん」として子供番組で活躍。現在子供のための音楽の第一人者としてシベリウスアカデミーで教鞭をとっている由。さらには長男が最近来日もした天才若手ギタリスト、ペッテリ・サリオラ。長女ソイラは人気アカペラグループRajaton のメンバーだということが判明。まさにフィンランド音楽シーンのグレートマザーなわけですな。
  カンテレ奏者のひとり Hannu Syrjälahti はのちの90年代に Niekku のメンバー(A-K. リーデ、A. イタペルト)と組んでアルバム出したりもしています。

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